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て言うほど行ってない人間の

2014/東京国際映画祭③

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1001グラム

コンペティション部門の映画つづき。6本。

★→とってもよかった〜
◎→これもよかった〜
◯→ワタシ的にはイマイチ・・


★『1001グラム』(ノルウェー/ドイツ/フランス)

 

北欧らしい色彩、珍しい題材、仕事、新しい出会い…
女性好みかも。

{父の死によってキログラム原器を大事に持ってパリ
の学会に出席することになった研究所の女性。人生に
ついてじんわり考えさせられる。}

少し前にスーツアクターにスポットを当てた映画が
あったが、時々このように「世の中にこんなものが」
とか「こんな仕事があったのか」みたいな作品に出合
うと勉強になるし知らない世界に興味がわく。
これは、各国に保管されている“キログラム原器”に
ちなんだストーリー。
知らんかったよねー、1879年に定義され、キログラム
原器はずっと使用されている。ホコリや垢が着いて重
さが変わらないよう“度量衡研究所”で保管や扱いは慎
重に。ザックリいうと分銅の大きい版みたいな感じ。
日本にももちろんあるんだよなぁ。劇中の学会で、い
ろんな色の肌のいろんな人種の方々が皆、自国の原器
を持って記念写真。その場面も印象的だし、尊敬して
いた研究者である父を失い、そこに父の代理で学会で
海外へ・・心休まる暇がない女性が、新たな出会いで
ちょっとホッとするとこちらも安心した。そして“人生
で最大の重荷” は何だろう。
哲学的でもあるし、生前の父親の「魂の重さは○g」と
いうセリフがのちに心憎い表れかたをする。じーん。
日本公開が決まってるらしい。ヨーロッパ映画が好き
な女性はぜひ。
次回のアカデミー外国語映画のノルウェー代表作品。

セリフなど、以下で少しネタバレ↓↓


《記者会見より》

出席:ベント・ハーメル(監督)、アーネ・ダール・トルプ(主演)

・構想はキログラムのモチーフが先か、女性の話が先か
すべてが一度に浮かんだ。キログラム原器はいろいろ
なものを象徴している。両方の話を伝えたいと思い、
リサーチした。何かに打たれた感じで出合った。そも
そも私の中にあったのかもしれない。

・監督作は男性の孤独モノが多いが今回は女性が主役
彼女を女性としてではなく人間としてアプローチした。
男性が主人公でも変わらないと思う。何年も前だが妻と
アーネが(仕事で?)一緒になり、妻が「なぜ女性を
主役にしないの。次は女性に」と言ってきた。
今回はアーネをたまたま主演にした。
男性の孤独というのは、ある程度自国の底辺かもしれ
ない。ノルウェーに限らず孤独は普遍的なものだと思う。

・バスルームのセリフを含め、アドリブか台本か
ほとんど脚本通り。なぜなら単位の話だから。唯一、
「ひとにぎり」と言って胸を触らせるところは彼女の
アドリブ。(へえぇ)

・アーネさんの役作りや、監督について
マリエのステッカーの貼り方は正確でまっすぐ。自分
はいいかげんだがそういうところはちゃんとした。歩
き方なども、彼女のきっちりした部分ひとつひとつが
重要。笑みは最低限に抑えようと監督と話した。動き
方もカタい、生き方もカラダも自分でコントロール
ている、歩き方も早い。だが父の遺灰のシーンだけは
ゆっくり歩いた。
(監督はノルウェーではユニークで有名。俳優たちがぜ
ひ出たい!と願うそうだ。)

・マリエのケガを見た女性が「カレシ?」 ノルウェー
のDV事情は
いつも彼女を質問攻めする友人女性がまた聞いた、と
いうくだり。友人はいつも彼女に根掘り葉掘り聞くが、
マリエは距離を置いている。(ノルウェー人は凶暴で
なく、特にDVが多くないと思う。でも社会的問題でな
いというわけではない。)


↑これも、マリエは他人のプライバシーに突っ込んだ
りうわさ話をしたりせず、そういう人と違うというこ
とだろう。でもほどよく付き合う。
ずっとグラム中心に人生とは何ぞやみたいな運びだった
のだが、最後に重さから長さの単位の話になる。その
やりとりにクスッとする。
「人生最大の重荷とは、何も背負うものがないこと」
・・深いなぁ。

 

◎『破裂するドリアンの河の記憶』(マレーシア)

社会と恋愛と、歪む正義…祭りのシーンが印象的。

{実在の出来事が元。レアアース工場建設反対運動を
率先する教師と、誘われた生徒たち。彼らの理想が思
わぬ形で激しく衝突していく。全編中国語作品。}


主人公はちょっとボーっとしている男子高校生のミン。
気になる幼なじみの女子とイイ関係になり、のんびり
生活したかっただけだろう彼に、社会の変化は容赦な
く襲ってくる。ミンのゆるさと反対派グループの緊迫
した進捗の対比がおもしろいと思った。
気になる女子が事情で姿を消すまでの前半と、ミンも
工場反対派集団に少しかかわるようになる後半は雰囲
気がガラリと変わる。
女性教師は課程外の諸外国歴史を講義して校長に疎ま
れ、工場反対運動では行きすぎた正義が事件を起こす。
一番に誘われた生徒は疑問を持ち始め・・
(日本のじゃぱゆきさんのことも授業に登場する)

なんだか日本の70年代の大学闘争とか赤軍のようだ。
“自分の正義” のための行為がエスカレートするリーダー。
下の者は理想が違う方向へ進むことに危機を覚えるが、
異を唱えることは・・。正しさってなんなのか。
青春映画に社会問題が絡んでその部分はおそろしい。
正解はもちろんない。ただラストの、美しくにぎやか
なシーンが救いである。


《記者会見より》

出席:エドモンド・ヨウ(監督)、ミンジン・ウー(プロデューサー)
シャーン・コー、ダフネ・ロー、ジョーイ・レオン(高校生役俳優3人)

・ドリアンについて
マレーシアで重要な役割。嫌がる人も多い。外が
かたくてにおいがきつく、でも中はソフトで甘い
マレーシアを象徴していると思った。

・劇中の授業の内容や、マレーシアの映画事情
歴史についていろいろ関心があり、語られることの
なかった事象を多く盛り込んだ。
シネマは強いパワーを持っていて、世界のことを覚
えていく手段だと思っている。覚えていてほしい。
隣国も日本のことも他人事ではないと思う。
映画制作は、数年前からゆっくりと恩恵を受けてい
る。マレーシアは政府推進でフィルムメーカーが制
作費を出し、シネマ状況が改善してきている。でき
るだけ作品で皆さんに問いかけしたい。facebook
は政府への不満が多いが公で批判するより映画で問
いかけたかった。タイ・フィリピン事情は隣国で関
連性があるので、歴史は同じように繰り返されるの
だろうか・・平和を願う。


上記のように深刻な物語なのだが若者が主役の作品で、
初来日したという女性ふたりは特にキャピキャピで
「夢がかなったよう!」とニコニコだった。
「セリフがあまりない感情豊かな役。マレーシアのこ
とを描いているが、私たちの現状や希望を感じていた
だけたら。これまでホラー出演が多く初めての役。脚
本読んだが撮影では持っていかなかった。十分役作り
して人物を表現した」とも。
主演は「ミンは自分そのもの。撮影時、自由くれたこ
とに感謝。あまり勉強せず、女の子を追いかけてる役、
それだけ言われたので。マレーシアのいろいろな場所
に行けてよかった。あ、監督から『誰にも言うなよ、
東京に行けるぞ!』と言われ喜んだが、翌日には皆が
知ってた」と笑いも。


この後も、会場付近で何度も彼らを見た。キレイな衣
装の女性ふたりはいつでもやっぱりハシャいでいて、
写真を撮りまくっていた。ほほえましい。
大都会東京で、アジアの大きな映画祭参加で嬉しさ
MAXだったんだろうな。
帰国後にも、周囲に興奮して話していたに違いない。
フフフ。

 

◯『壊れた心』(フィリピン/ドイツ)

内容が壊れとるがな。

浅野忠信主演。娼婦を助けた殺し屋が彼女と逃避行。
セリフはナシに近い。}

なんだかなー。全編音楽で埋めつくされている。バー
みたいな場所で皆ヤリまくっていたり、口から白い液
体を流したままもだえているような女の顔だけが
ずーっとずーっとアップだったり。キビシイ・・
セリフ登場は開始後50分後にひとこと(←思わず時計
見たっ)。全部で2回ほど。
音楽は歌入り・なしと混在で、曲も「フルートかもしれ
ないがリコーダーかな。これはおもちゃの鉄琴っぽい」
と、オーケストラ等に比べてチープな音が楽しい曲も
あった。ただ、有名なバロック(忘れた)が流れた時は
「これにはHな映像合わせんといて!!」と願った。走って
るかなんかのシーンでまだマシだった。ホッ。
おそらく言葉が通じない設定なのだろうしこういうのも
芸術的にイイのかもしれ
ないが私には・・同じ時間に上映の台湾映画を見れば
よかったー、と後悔。


《記者会見より》

出席:ケビン・デ・ラ・クルス(監督)、クリストファー・
ドイル(撮影監督)、ステファン・ホール(プロデューサー)、
エレナ・カザン、ビム・ナデラ、アンドレ・プエルトラノ(俳優3人)


映画通ならお馴染み?監督だったかドイルだったかが、
司会を無視して自分からしゃべりまくり。「今日は脱
がないよ! どうしてもっていうなら別だけどね!」
とかいろいろモロモロ、私は事情知らず笑えない・・
司会「しばらく放っておきましょう(笑)」という状態。

ケビン「4日間で撮った作品。予期せぬことが多数起
きていろいろと変更した」
エレナ「コブタをきれいに洗ったら、怖がって演技で
きなくなったのよ」
ドイル「食べたんだよみんなで! フィリピンは雨で大
変だった。この言葉は好きなように解釈して!」 …???

ステファン「なぜこんな映画を作ったか。浅野忠信
やイイ女優がいて、皆で協力して進め、何が起こるか
わからない興奮。ほぼ即興。グローバリゼーション
を擬人化したものだと思っている。フィリピン初だ。」
ドイル「フィリピンはたぶん世界で一番カトリック的。
私もカトリックカトリックの意味は、オープン、意
図的、広い。タトゥー入れているエンドクレジットは
とてもカトリック。この映画を背負っていかないといけない」

・神話ミノタウロスに影響受けたか
馬の男や羽の女はあくまでイメージ。ひとつの大きな
夢だともいえる。好きなように解釈して。

・特徴的なカラフルな色はフィリピンぽさ?監督の個性?
カラフルは好き。マニラの、昼なのに夜みたいとかそう
いう色合いを使った。
ステファン「音楽はこの映画の大切な “声”。フィリピン
のラブソングが題名」
ドイル「コンセプトはいくらでも書けるがいろんな人が
集まってそこで起こること、それがすべて。映画学校で
言うことを信じてはいけない」


私は映画に終始ポカーンだったが、これらの言葉は映画
制作を目指す方には勉強になるのだろう。
ケビンは少年の頃、日本のヤマハエレクトーンコンクール
で優勝経験があるとか。なにしろ見た目もカラフルで、
ずーっと楽しそうな方々だった。

 

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マルセイユ・コネクション

(◎)『マルセイユ・コネクション』(フランス/ベルギー)

きっと見ごたえある映画! 最終日に近くて私は眠気が。

{判事と巨大な麻薬組織の攻防戦。実在の人物・事件がベース。}

ぜっったいシッカリ見ておきたい内容のはずなのに、
70年代だしフランスだし、意識が頼りないと男性は皆
「うーん、マンダム」に見えてしまう。残念。
(若い人は知らんな。昔はやったCMのセリフ。)
話題になった『アーティスト』の主演が今回も主演な
のに「どっちがその人?」状態でわからなくなった私。

実際の事件なので、主要人物が殺されるシーンは残さ
れた家族の悲しみを思うと・・・涙。


《記者会見より》

出席:セドリック・ジメネス(監督)、ジル・ルルーシュ(ザンパ役俳優)

・実在事件を扱うプレッシャーは
なかったが責任を感じた。実在の人物を尊重する・
裏切らないということに徹底した。
ジル「プレッシャー感じた。あまりカリカチュア
ならず、かといって美化しすぎないように。彼の友
人や刑事、家族にも会った。辛い出来事をさらに
辛くしないよう、家族に対してプレッシャー感じた」

・ハンディカメラ使用について
観客にも人物像と一緒に生きてほしいと思った。
70年代のクラシックの刑事物と比べて距離感を作り
たくなかった。なるべく俳優の動きに付いていくよ
うにイキイキと撮りたかった。

・監督のモチベーションは
私はマルセイユ生まれのマルセイユ育ちで、父親が
経営するナイトクラブがザンパの店の隣にあった。
だから彼らのことも事件も知っていたし、ずっと
彼らのことを作品にしたいと思っていた。

・ジルさんの東京の印象は
こどもの頃から来たいと夢見ていた。『ブレード
ランナー』のイメージで未来都市。ワクワクする街、
コードが違う街、興味・関心かきたてられる街で
多くの監督が東京で撮りたいという気持ちがよくわ
かる。フランスが中世のように見えてくる。


ひげ役が多いジル・ルルーシュだが、今回は実在人
物をちゃんとすることに監督がこだわり、毎日キレ
イに剃っていたとか。主人公の判事もザンパも、その
年代のイイ衣装を着ていて、そこも再現していると。
うーん、マンダム。

 

◎『遥かなる家』(中国)

ラストが意外!! はあー・・・厳しい時代の流れ。

{中国の辺境地で両親と離れて通学する兄弟。弟は
寮で、兄は祖父宅で暮らし、仲が良くなく口もあま
りきかない。休みに入るのに放牧している父が迎
えに来ず祖父が死に、ふたりだけで家路への長い
長い旅をすることになる。}

どー見ても、兄はめっちゃ性格悪い。ジコチューで
兄のくせに弟のことなんて構わないどころか迷惑を
かけてばかり。弟は困っても兄思いでイイ子だ。
しかし互いに「兄は損」「弟は損」だと思って不満
がたまっている。

小さなこどもだけで、少しの食料や水を積んだラク
ダに乗った旅は過酷で長い。毎夜、漆黒の砂漠で眠
る姿なんて…日本で何不自由なく育った身には想像も
できない。北京や上海育ちも同じだろうけど。
時には生死にかかわるような困難を経て、それでも
歩いて進むしかないのだ。まるで彼らと一緒に、何
日も何日も旅をした気分になる。
しかし最後に彼らが見たものは・・兄弟や誰かが死
ぬとかでは全くないのだけれど、ワタシ的には悲しい、
切なすぎる余韻が残った作品。これが現実。

 

◯『ロス・ホンゴス』(コロンビア/フランス/ドイツ/アルゼンチン)

よかったんだが…書けるほどの印象が残ってない!

{スケボー少年と友人は、大規模なゲリラペイン
ティング企画に参加する。若者・音楽・宗教・政治・
ジェンダーなど、コロンビアの今を描く映画。}

ひとりの少年はとてもおばあちゃん思い。毎日祖母
の世話をし、話しかけ、「頭がかゆい」というと、
「かいちゃだめだよ。僕がマッサージするから」
のくりかえし。頭が下がる!
もうひとりの少年は、壁にペインティングするため
のペンキを職場から度々盗んでクビになる。あと、
歌う女性など多数登場するんだが。最後もゲリラ
行為で警察に追われ、けっこう意外な結末なんだが…
なんだったっけ、
とお粗末な記憶で感想らしい感想が、ない。スミマセン。


《記者会見より》

出席:オスカル・ルイス・ナビア(監督)、ゲイリー・ポランコ(プロデューサー)

・ふたりの主役の発掘は
いろんな高校などをめぐって700人くらいにインタ
ビューしてペイントできる男の子を探した。そして、
夢を持っているふたりのビギナーを描くことにした。
ふたりを見つけられて幸運だ。ひとりはパルクール
習っていて大変いいキャスティングができた。
グラフィティシーンはそんなに多くないし、皆プロで
はない。自分の関係者がいっぱい出ていて、父親役は
私の父、祖母役は祖母のきょうだい。
壁の絵の世界観は実際にグラフィックアーティストか
ら意見をもらった。

・女性の役割は。フェミニズムを描こうとしている?
大変複雑な質問。考えていなかったができあがると
そうなった。今作は4年かけてできあがり、最初は私
の祖母が亡くなったことがきっかけ。女性はリベラル
になっている。最後にふたりは敬意から母を描くと言う。

・ピアスの位置はゲイ?女の子たちもレズビアンぽい?
乳首にピアスはコロンビアでは必ずしもゲイではない。
セクシュアリティのコンセプトはかなり大きく変化し
ている。物理的な男女、というより、この主役は今は
ゲイじゃないが将来そうなるかもしれないし、ガール
フレンドたちも、女どうしでキスしているがレズとい
うわけではない。


若者と年配の関係性に共鳴してほしいとのこと。
なかなかよかった映画、だった、はず。