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て言うほど行ってない人間の

2014/東京国際映画祭②

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アイス・フォレスト

コンペティション部門の映画つづき。6本。

★→とってもよかった〜
◎→これもよかった〜
◯→ワタシ的にはイマイチ・・


◯『アイス・フォレスト』(イタリア)

 


凍りつく世界で、緊張が走る・・・


{イタリア国境近くの発電所の謎や犯罪を描くサスペンス。}


冒頭のこどものシーンは後にとても重要になる。
終始ヒヤ〜っとした画面で、ゆるゆる感など皆無。
女性技師が派遣された村はなんだか異様な雰囲気が漂い、移
民問題もからんで謎が深まっていく・・のだろうが、なんで
かな、この時は体調万全だったのに入りこめず、ストーリー
もよくわからずじまい。
ただ背筋を正して見ないといけないような感覚が残っている。


《記者会見より》

出席:クラウディオ・ノーチェ(監督)、
アドリアーノ・ジャンニーニ(ロレンツォ役俳優)

・ロケ地や撮影期間について
イタリアのトレンティーノ州だが、映画の舞台はもっと東で
スロベニアとの国境付近。脚本に2年、撮影は5週間。手間の
かかる作品のわりに短い。予算が少なく寒い中で大変だった。

・イタリア映画なのに、山が舞台のスリラー。
地元の非職業俳優が多く、プロ俳優との共演は難しかった。
土地の彼らは寒さが刻まれた顔、手が大きくて指もゴツい。
だんだん俳優たちの顔も変わり、彼らに近づいていった。そ
の土地が大きな役割を果たしていた。
イタリアの強い酒も助けてくれた。(←そういや飲むシーン多。)

・ダムで人が落ちるシーンの撮影方法は
基本スタントマン。カットしたが、クストリッツァ(セコン
ド役)が地上10mから落ちるシーンもあった。スタントマン
は7〜80mから落ちた。

モーツァルトのレクイエム K626の使用意図は
ある意味“葬式”。死へと向かっていく。だから最後に使おうと。


そうそう、落ちるシーンすごかったし、誰と誰が実はこういう
関係で・・実はダレダレは○○人ではなくて、など謎が解けて
いく展開も覚えているのになぜ入り込めなかったんだろう・・
もう一度見たいな。


(◎)『草原の実験』(ロシア) 【最優秀芸術貢献賞

↑カッコ付きなのは、疲労の上に途中から鑑賞したから。

{大草原で暮らす父娘。娘の三角関係の恋愛。ラストには
ドカーンときのこ雲。セリフのない、反戦&ラブストーリー。}

あぁあ!こういう作品は体調万全でしっかと見なければ。
きっと多くの人が「良い」と思う作品だろうし映像に惹かれ
たので、自分的にもイイんだろうとなんとなくわかる。
ぜひ最初から見たかった。残念。


《記者会見より》

出席:アレクサンドル・コット(監督)

・セリフがないが、脚本はどのように
制作には2つのアプローチがある。ひとつは脚本を描いてその
通りに撮ること。もうひとつは頭にシーンを思い浮かべ、それ
を書くこと。今回は後者。しかし脚本らしい脚本はなく、わず
か3ページ程度のもので撮った。

・キャスティングについて
セリフあり映画とセリフなし映画では役者の選び方が異なる。
主演女優はプロでない14歳。顔だけで何が言いたいかわかる
ような、表情豊かな人を選んだ。

編集に気を使った。セリフがないので観客が眠らないように、
また、この女優は演技をしようとするとかえって不自然になる
のでそういう場面では編集で自然に見えるようにした。

・小さな画面でも映画鑑賞ができる時代だが
スマホなどでなく、映画館で鑑賞する観客を対象に作った作品。


やはり、大スクリーンで見なければ。
編集ってスゴイんですよ、なんとでもなりますみたいな答えが
へえ〜だった。
いいカットが撮れない! と悩む監督が多いように思ってたから。
あと、核爆発の色は大変気を使ったとも。一歩間違うとアニメ
のようになるから。全体はなるべく自然のままに変えないよう
にした、とのこと。
最優秀芸術貢献賞、おめでとうございます。


★『ナバット』(アゼルバイジャン

荒涼、というか “寒っ!! 感” 満載。晴れているシーンでも。

{病身の夫と暮らす女性ナバット。遠くから銃声が響く日々、
その不気味な状態はやがて住民の生活を侵食していく・・・}

ナバットはおばあさん(に見える)。絞った牛乳を、遠方に
歩いて届ける場面から始まる。長い道のり、その時々に出会う
住人との挨拶・・単調に続くようなシーンだが心つかまれる。
配達先は義姉の家らしく、ナバットが去ってから義兄が「都
会でも牛乳消費量が減っているのに田舎でも毎朝買う人はい
まどきいないよ」と漏らす。義姉が
「彼女が収入を得る手段はこれだけなんだから、今後も買って
やってよ」と返したセリフで、ナバットの生活水準も見える。
そして、重く響く銃声。
音は日ごとに近く、回数は多くなっていく。
戦死した息子への思いあふれるセリフが時々挟まれる。

風になびく、放置された洗濯物。壊れた屋根や壁、思い出の
写真の額の数々。だんだんカラになっていく村を、その家々
を、誰かを探してさまようナバット。
やがて牛の乳は止まり、世話をしていた夫も・・・彼女はひとりになる。

大自然とナバットをじっくりと見つめたくなるはず。


《記者会見より》

出席:エルチン・ムサオグル(監督)、ファテメ・モタメダリア(主演)

(おそらく、監督はドキュメンタリーばかり撮ってきた方
で、主演はよく来日する親日家のようだ)

監督「初来日の前に、文字や映画、クロサワのことなど知
識を得た。映画祭で上映させてもらえてとても嬉しい」
ファテメ「日本はふたつ目のふるさと。『日本に来る』と
は思っていない。自分の家に来るよう」

・イランの国民的女優であるファテメさんが主演を引き受
けた理由は。監督はフィクション初だし、隣でもアゼルバ
イジャンは言葉も違う

金銭や名誉は気にしない。今まで53本の映画で、53人のさ
まざまな人を演じている。その経験を若い監督に差し出した
い。また、彼らの新鮮なアイデアは自分の演技に足していく。
ナバットは強く美しいと思ったから演じた。私は強い女性が
大好きで、外見をそう見せなくても中身が強い女性が好き。
ナバットは自然や人々の悲しみ痛みを受けて立ち上がる、だ
から強い。そして自分からは世界になんの期待もしていない。
欺まん的でなく、何も返ってこなくても差し出せる。
こんなに多数の理由があるから役を引き受けた。これまでと、
ロケ地も言葉も年齢も違う、大きなチャレンジだった。

・壁にかかるゲバラの絵や、狼を助けるシーンについて
監督:私もソ連時代に生きていたのでゲバラはヒーロー的存在。
たとえば家にゲバラの絵があり、でも母は彼を知らないので
私の友人だと思っていたよう(笑)
ナバットはシンプルな女性で、母親だがすべての女性を反映
させている。彼女は息子がゲバラのように見えることを望ん
でいる。ナバットが狼を助けたのは、まず母はすべてを守る
べきだというイデオロギー
さらに、単に狼だけでなくナバットは自然すべてを守った、
ということ。

・政治的な作品だと受け止めた。戦闘の音はどこの国との想定か
1991年、ソ連崩壊時に離国したすべての国が戦争を起こして
いる(唯一、ウクライナのみ何もなかった)過去に15カ国が
結合した時も離れた時も、血を流す分解だったと思っている。
イメージは自国の経験した対立。この作品は戦争についてだけ
ではなく、母親が直面する時のことを描いている。それはアゼ
ルバイジャンだけでなくすべての国において。母にとって最重
要の願いは、こどもたちが幸せに生きること。戦争によってそ
れが取り去られてしまう。


登場されたとき、「あれがナバット?」と目を疑った。おばあ
さんどころか、おばさんと言っても失礼なくらい、キレイ。
あー、映画もっかい見たい。最優秀主演女優賞はナバットか
『ザ・レッスン』の方かと私は予想した。無冠なのが驚く作品。

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来るべき日々



◯『来るべき日々』(フランス)

終盤に、マチュー・アマルリックが出てくる!!

{実験的映画?本人役で登場するこの作品の映画監督が、や
たらキビシく周囲の人々にごちゃごちゃモンクを言いまくり、
ドキュメンタリーとフィクションが混じるような。公式カタ
ログには、10章が結びついている、とある。}

監督が歩いた後に空からドーンとグランドピアノが降ってき
たり、バスの中でなぜか枕をアタッシュケースに一所懸命詰
めようとしている男性がいたり。友人たちは度重なる撮り直
しに不満タラタラ。するとマチューが登場したので(会場笑
いが)それにびっくりして、彼も早口で監督にモンクを叫ん
でいるのだが、セリフ覚えてない・・。
会見で「政治的メッセージがあったのか・・」と知ったくら
い、私には映像のヘンなおもしろさだけが残った。


《記者会見より》
出席:ロマン・グービル(監督)、サンダ・グービル(妻で今作に出演)


・映画祭でこそ楽しめる作品ですね
こんにちではタブーとされていること、スターリンとか共産
主義の話が出ているが、シネマを通じて語るのは重要なこと。

・シネマは世界を変えられるか
幸いにして、1本の映画で世界は変えられない。もしそれが可
能なら、独裁者が都合の良い映画を作って強制的に見せて世界
を変えてしまう。しかし私ができることは、クエスチョンを投
げかけること。疑問がいろんな人に伝わり、皆に考えさせるこ
とはできる。意味のあることだと思っている。

・かなり自伝的だが、どこまでが現実なのか
昔から常に家族や友人を撮影している。こどもたちは小さい頃
からカメラ慣れしていて退屈したりする。それでフィクション
も作る。想像したシーンで、ハダカのこどもたちが登場し、妻
もハダカでいる。こどもたちが「これは使えないでしょ、困る
よ」と言っていた。公開されたら友人たちが母や自分のハダカ
を見る。大惨事だから使わないで!と。
でも、撮った90分のうち、使ったのは10分くらい。
(↑だから大したことない、と監督は言いたい?いやいや〜)

妻サンダ:こどもは大きくなるとイヤだと思うようになっている
が今回はシナリオで演じてもらった。上手にできていると思う。

・ピアノが降ってくるのは監督の日常?(笑)
(マジメに)人生のリスクとしてある。友人が私を選ぶ、それ
はリスクがある。それはピアノが空から降るリスクを承知して
いるということ。日本の友人で映画批評家のウメモト氏に、今
回もう一度会いたかったが亡くなった。
彼にオマージュを捧げたい。日本でもピアノは落ちてくるんだ。


夫人はブルカを着るという原理主義に反してハダカで映ってい
るとか、「エディプスのかかと」とフランス語のアクセントで
言い間違えるセリフも演出とのこと。
それらを聞いたら、もっかいちゃんと見たいな〜と思った。

 

★『メルボルン』(イラン)

コメディに見えなくもない・・

{海外引越し当日の若い夫婦。大事件が起きる心理サスペンス。}

彼女が消えた浜辺』『別離』など、日本でも知名度が高いイ
ラン映画。そのファルハディ監督に影響を受けたニマ・ジャウ
ディ初監督作品。
この作品も公開されるだろうと思うので、ネタバレなしで。
しかしそれが難しい!! 映画祭ポスターにヒントがあるのでわか
るかも。とんでもない出来事があり、とっさに夫がウソをつく。
それがどんどんヤバくなっていき、ハラハラ、やきもきさせら
れる。「もしや仕組まれたのでは?」という希望も・・・。
公開されたらぜひネタバレ検索なしで見ていただきたい。
ラストもあっけにとられたなぁ。

記者会見では、監督の経験が制作のきっかけになっていて、
「これがもし、○○になったらどうしよう・・」とコワイこと
を想像したからだとか。
公開されたら、ファルハディ作品が好きな方はぜひ。

 

★『ザ・レッスン / 授業の代償』(ブルガリア/ギリシャ)【審査員特別賞】

こちらも、見事な転がり方で秀逸!

{小学校の教室でお金が盗まれる。担任の女性は、それは
罪だと強く諭すが直後に自分が大きな金銭トラブルに遭う
皮肉。彼女の悲劇と顛末は・・}

常に正しく。表情もかたく、教えるこどもたちにも背後か
らマジメな歩き方を真似て笑われている女性。どう見ても
教え子たちに好かれていない。
毎月払っていたはずの家賃は夫が使い込み、未納で自宅が
差し押さえにあい、近日中に大金を用意するハメになる。
「最初の教室の事件あまり関係ないんじゃ」と思ったが
とんでもない。中盤にもラストにも響いてくるのだ。
金策に走る彼女。比喩でなく、本当に走り回ってる。生
活を良くしようとがんばるのに、やることなすことがすべ
裏目に。もう、「あ〜あ、」・・しかない。

女性の父親は彼女の夫を気に入らないし、彼女も父の新
パートナーが嫌い。ずっと正しく生きてきた彼女だが、
唯一その父のパートナーへのイジワルがこどもっぽくて、
人間らしいなぁ〜と思った。
こちらも終盤「アッ」という展開。
公開されたらネタバレなしで見てほしいが、↓記者会見に
ネタバレあり。
今号はこの作品を最後にするので知りたくない方はご注意を。


《記者会見より》

出席:ペタル・ヴァルチャノフ(監督)、マルギタ・ゴシェバ(主演)

・主人公ナデのラストの表情は、吹っ切れたような感じが
するが
ブルガリアの実在事件をベースにしている。「先生の強盗」
という見出しを見て、あとは想像で作り上げた。最後にモ
ラルを問いかけたり、有罪か無罪かといったことは問題に
していない。ラストの演出は意図的。
彼女はそれまで、登り坂に大きな石があれば押し上げなが
ら進むという生き方だったがある時から、石なんて転がし
ておけばいいという考えになった。

ブルガリアの映画制作事情や情勢は
年間3、4本くらい。
今作はブルガリアフィルムコミッションに2回も断られた。
今まで短編やTV番組を作ってきて、俳優とのあまりいい関
係がない。でも提出した2回目は気に入ったと言ってくれた
のに、なぜか最終的にポイント低くダメで、ギリシャで協
力してもらえることになってよかった。

ブルガリア共産主義が終わっても何も変わっていない。
同じ人がリーダーのまま。普通の人々はチャンスを与えら
れない。そのままガマンするか行動を起こすか(主人公は
起こした)。
今回の舞台は田舎で人々は切実な状況。今は奇妙な期間で、
世界のことなどを学んで模索していると思う。映画の中の
こどもたちがこれから社会を変えてくれればと願っている。
しかし誰もが助けてくれないような冷たい世の中というわ
けではなく、バス運転手や銀行受付は彼女を助けてくれた。
夫も、親としては良い父親(笑)

・役作りや、ストッキングを脱ぐシーンについて
(日本では少しおかしい)
マルギタ:TVで強盗したその女性のインタビューを見たひ
とつき後に役の話があった。知的でプライドが高い印象の
彼女を思った。日本と違い、道端でストッキングを脱ぐの
は私たちにとっては特にヘンなことではない。それに彼女
は切羽つまっていたから。
(監督:でもあれは道端と特定しておらず物かげかもしれ
ない。場所がわからないようなカメラワークにして、そこ
は彼女に注目してほしかった。葛藤し、覚悟を決めていく
段階のシーンだから。)


制作数が極少の国なのに、こんなにクオリティ高い映画
作れるの!!とびっくり。そりゃ実際にはあまりないケース
だけど、普遍的なテーマなのでいろんな国の人たちに受
け入れられると思う。めちゃくちゃオススメ。
それにそれに。『ナバット』同様、「えっ、この人がナ
デ?」と驚く。
映画ではへの字口で黒髪アジアっぽいマジメ〜風貌だが、
普段は見るからに欧米人でにこやかで美しい。俳優って
やっぱスゴイな〜。