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て言うほど行ってない人間の

2022 / (TIFF) 東京国際映画祭⑤

©2022 TIFF

 

コンペティション  『テルアビブ・ベイルート』(キプロス/仏/独)

 


予告編
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP13 


国境を越えようとする女性の旅
1980年代のイスラエルレバノン間の紛争を背景に、国境によって家族と
分断されたふたりの女性の旅を描いたロードムービー。監督は『故郷よ』
(11)で知られるイスラエル出身の女性監督ミハル・ボガニム。

 


    「戦争は麻薬だ」…誰にとって?


音楽がとても良かった。明るいのも、弦楽の暗いのも。
ロードムービー部分はこれだけなん、と短さにけっこうびっくり。
惜しかったのが、外国映画のせいか誰が誰か、この二人は夫婦かと思え
ば親子だったとか、覚えられずに中盤まで過ぎてしまったところ。

紛争によって国境を越えて家族と離ればなれになる悲劇、フランス語が
中心になるシーンとそうでない場面、このあたりも世界情勢とか詳しく
ないと難しい話なんだろうと思う。予習は必須。
隣国に逃れても差別や冷遇があって穏やかに暮らせないし、宗教も絡ん
で事情不明のまま置いていかれる感じだし。

短いロードムービーでも、タニアを無理矢理誘って息子を探そうと運転
手になったミリアムがなぜか急に「もう行くの面倒になった、降りて」
と言いつつ爆撃があってまた2人で先へ進むナゾな心変わりとか、途中
で池か湖かで肌着で泳ぐキラキラで楽しそうな主人公たちとか、その後
の家族の急死とか、"生きる" っていろいろだなぁと見ごたえがあった。
役名のない男性が発した、戦争は麻薬、とは兵士にとってなのか国か、
市井の人々なのか、考えてしまった。


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『鬼火』(ポルトガル/フランス)


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3504WFC04 


消防士の青年のラブ・ストーリー
『鳥類学者』(16)のロドリゲスが消防士として働く白人青年と黒人青
年のラブ・ストーリーを様々なジャンルを混交させて描いた作品。特に
ミュージカル風演出が見事である。カンヌ映画祭監督週間で上映。

 

    なんなん、もぅ…。


「ミュージカル風演出が見事である」にダマされた。
日本での公開作品ではないからか、R15とも18ともなんの記載もなし。
最初は2070年代だったかかなり未来のシーンがあって、主人公が死に瀕
している。そして若い頃の回想へ。
そこからラブストーリーなんてロマンチックなもんでなく、えんえんと
まぐわって、オモチャだろうけど、互いの性器もドーンとアップで登場、
ボカシなし、これも「何を見せられているんだ」状態である。
ヒドすぎる、まさかこんなんだとは、がプレス仲間とのコメント。

環境メッセージ等あったはずだが男性器のオンパレードで全部ふっ飛ぶ。
ラストの展開は少しは脈絡があったけど。
王族の白人男性に対して、2070年代に戻った時の、昔の彼はいずこへ、
が判明するので「おぉ、」と感心した。
…そこだけである。

 

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コンペティション『1976』(チリ/アルゼンチン/カタール)
★最優秀女優賞


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP01


チリ独裁政権下の静かな恐怖
ピノチェト政権下のチリ。主婦のカルメンは司祭からひとりの若い男を
かくまうように頼まれ、了承する。だが、そのことは彼女の生活を大き
く変えることになる。独裁政権下の静かな恐怖を描いた作品。

 

    主人公はおばあちゃん?いつもヒールを履いてキレイで。



解説どおり、ホント静かな恐怖。
不勉強な私はチリのこともピノチェトという人名も知らないので味わえ
ないが、映画で少し知ることができるのは嬉しい。
年代的にクラシックカーがかわいく、タバコすぱすぱシーン多数。

不謹慎だけど、7歳の子を筆頭に孫がいると判明した時点で、ブルジョ
ア奥様だからといっても、つい韓国映画ステレオタイプのおばあちゃ
んと比べてしまった。なんで韓国出すねんと自分にツッコミつつ。

キレイな女性だから、世話では大ケガ男性も好意を持っているっぽくて
アヤしい含みが、と思ったけどそういう展開ではない。
崖の外国人の遺体は支援で知り合った女の子かもしれない、家の中で青
年のことを知っているのは他にはたぶん1人のお手伝い女性だけだろう
けど、今日明日にもバレるかもしれない。ヒヤヒヤな日々。

監督も女性で若くて美しくて、言葉は力強い。主演のアリン・クーペン
ヘイム、彼女を当て書きして作ったそうだ。
司祭役の男性、チリやアルゼンチン映画でよく見る気がする。
ラスト、悲劇と孫の誕生日の主人公の複雑な表情が切なくて。
本編見る前にすでに予告編の、ペンキやクリームに青や赤が混濁するビ
ジュアルが強烈で、不穏がずっとまとわりついている。


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コンビニエンスストア』(ロシア/スロベニア/トルコ/ウズベキスタン)


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3504WFC06


ロシア社会の縮図を描く問題作
モスクワ郊外のスーパーマーケットの裏側で展開する恐るべき事実をウ
ズベキスタン人女性の目を通して描く。そこで見せられるものはロシア
社会の縮図でもある。ベルリン映画祭パノラマ部門で上映。



    居場所は、そこしかないのか…。



終始うす暗い、鬱々とした画面の連続である前半。
搾取されている出稼ぎ労働者は、逃げ出しても経営者と知り合いの警察
官に見つかって戻され、ひどい暴力を受けて再び軟禁され…。
これがロシアの縮図なん、と疑問に思ったが、多かれ少なかれ先進国と
周辺の途上国共通の事例なのだろう。

後半、なんとか逃げ出して保護団体に訴えてコトが動きだし、彼女たち
は助かるのかと明るい未来が見えた気がする、それはホント、気がする
だけだったという絶望感。
故郷のウズベキスタンに戻っても両親を見つけるまでにひと苦労、元の
家にもいないのだから。
息子を置いたままだからということもあるが、結局彼女はモスクワに戻
る。それも故郷で知り合った女性たちを連れて。
そして髪色など外見が豹変して、

ラストシーンがナゾ。街の様子が遠景になり、該当のコンビニと後ろの
ビル等の一角が、ゴゴゴとそこだけゴボっと抜けて空に飛んでいくよう。
んでエンディングに唐突に、ロックなんだかポップスだか演歌だかその
お国の歌がにぎやかに流れて、なんか明るい感じで混乱した。


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『スパルタ』(オーストリア/フランス/ドイツ)


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3504WFC09


オーストリアの鬼才の最新作
「パラダイス」シリーズで知られるウルリヒ・ザイドルの最新作。ルー
マニアの郊外の町で子供たちを集めて柔道教室を開く男がたどる悲劇を
描く。サンセバスチャン映画祭コンペティションで上映。



    柔道教室までが、めっちゃ長いんですけど。


派手な美女という相手がいるのに、義実家がなじめないのかなんなのか、
ベッドでうまくいかず言い訳して家を出る主人公。
廃墟のような学校に忍び込んで地元民に何してんだと怒られたり怪しま
れたり、「あれ、これ柔道教室の話じゃなかったっけ」と自分の情報を
疑うほど、そこにたどり着くまでが長い。

見知らぬこどもたちが遊んでいるところに、わーっと入り込んだりヤバ
めな大人で、やっと教室を開くも生徒集めも家庭に事情ありっぽい家を
狙っているし、小児性愛者なのかとわかってくるとおそろしくなる。
ただ、裸の男児の画像を夜な夜な見ていると偶然DV跡を見つけて彼を
守ろうとするのかなという姿はイイ方向かなと思いつつ、ある意味これ
もヤバめな父親に怒鳴られうまく行かず。
親たちの環境も底辺で知識もなさそうで、終盤には集団で迫るのだけど
なぜかうまく逃げてまた違う土地で…という展開。

同じことを繰り返すのかな。ヤバい男の話。
うさぎに対する残酷なシーンもあり。
おもしろい、とか好き、とか思ったわけじゃないけど、『パラダイス』
3部作があまりにもキョーレツだったので名前を忘れない監督に。
今作は子役への説明不足の問題作だったみたいね。