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て言うほど行ってない人間の

2022 / (TIFF) 東京国際映画祭③

©2022 TIFF

 

コンペティション『孔雀の嘆き』(スリランカ/イタリア)  ★最優秀芸術貢献賞

 


予告編
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP12 


養子斡旋業の闇に切り込む問題作
妹の心臓手術のために大金が必要となったアミラはとある会社で働き始め
る。それは望まれない妊娠で生まれた子供を外国人に斡旋する組織だった…。
スリランカの逸材が描き出す社会のダークサイド。

 


    「欧米で暮らしたほうが、幸せに決まってる」


芸術賞受賞だけあって、まずポスターに惹き付けられた。色味といい
デザインといい。

紹介された仕事が赤子の斡旋とは。
もちろん葛藤するし、闇の世界ではあるのだけれど、彼らが橋渡しを
しなければどうなるのか。
国による経済格差、女性だけにかかる負担、性教育やモラルの問題も。
これが "悪" とは言い切れない、winwinでもあるという現代の皮肉。
この女性経営者も責められないし、ある意味 "正義" だろう。
貧乏な親に育てられるよりも、裕福な人と国外へ。

終盤で、てっきり賄賂を渡して逃げ切るのだと思ったシーンがある。
そうしても良かったんじゃないだろうか。その意図はなんだろう。
監督の妹が実際に幼く亡くなったらしく、同じ名前で映画で生き続け
てほしくて作ったという話が印象的。
映画祭らしい作品で、見られてよかった。

 

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『セルヴィアム   ー私は仕えるー』(オーストリア)


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3507YTT01 


カトリック系寄宿学校の少女たち
ウィーン郊外のカトリック系の寄宿学校を舞台に、教義の重要さが失われ
つつある現状にあがなうヒロインを描く。監督は『モニタリング』(17)
のルート・マダー。ロカルノ映画祭コンペティションで上映。

 

    意外に、おどろおどろしくなかった。


3人の少女が代わる代わるメインになって進むような展開で、途中でシ
スターの秘密というかイケナイことを知ってしまってからがおそろしい
運びに…と思ったら、けっこう肩すかしかも。

それに予告編にもある、エレベーターを階段で追いかけるシーン。
乗っているシスターから見えているはずなのに、「見られた!」という
リアクションもなく、淡々と昇っていく不思議。ここナゾ。
なぜ訪問した保護者に本当のことを言うのだろう、もナゾ。
プレス仲間と話しても、解決しない。うーん。

筋と無関係だが、母親たちがだいたいヒールでミニスカート、その脚の
長さったら。さすがヨーロッパ。
エンディングの音楽は、内容と違ってすごくおどろおどろしかった。


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コンペティション『ザ・ビースト』(スペイン/フランス)  
★東京グランプリ/東京都知事
★最優秀監督賞
★最優秀男優賞


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP03 


寒村での暴力を描く衝撃作
スペイン、ガリシア地方の人里離れた山間の村を舞台に、移住して農耕
生活を始めたフランス人の中年夫婦が直面する、地元の有力者の一家と
の軋轢をパワフルな演出で描いた重厚な心理スリラー。

 

    見ごたえがあるけど、前半の胸クソ悪さったら。


スペイン人が寄ってたかってフランス人をいじめていじめて遂には…
あたりまえのことを言うと、スペイン人vsフランス人でもなく、外国人
vs外国人でもなく、昔からの定住者vs移住者、そこに絡む環境の変化、
とか日本の農村にもありえる普遍的な設定だ。

「すばらしいラブストーリー」と審査委員長がおっしゃったように、妻
の、家族愛も他人愛もなんだか超越していて、それが後半で徐々に判明
してくる。後半の主人公は妻である。
前半で単に、娘と孫と画面でしゃべっていると思ったら、その過去や関
係性も後半に明かされるし、夫が嫌がらせの証拠として撮ろうとした動
画をしつこく「止めて」というのも後でなるほどなぁ、と思ったり。
最後、嫌がらせをする隣人きょうだいの母親にかける彼女の言葉が…
私は絶対できないな、いや大半の人がそうだろうと思う。
他人を尊重し、悲しい出来事があった地域に居続けるのってスゴい。

でも村人全員が主人公夫婦を目の敵にしているのではなく、友達もでき
るし、環境破壊について意見を同一にする人もいる。
隣人きょうだい目線も一考。主人公夫婦が移住して異を唱えなければ、
業者に搾取されても村はある意味平和だったはず。彼らの正義もある。
そうなるとドラマにならんし、主人公の移住理由もなかなか強引だけど。

残酷だけれどネタバレなしで見てほしい、緊迫感あふれる展開の映画。


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©2022 TIFF



コンペティション『アシュカル』(チュニジア/フランス)


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP02 


人体自然発火の謎を追う刑事
チュニスの郊外。民主化運動の最中に工事が中断された建設現場で黒焦
げの死体が連続して発見され、ふたりの刑事が捜査を始める。ジャンル
映画に政治的メッセージを注入した異色の監督デビュー作。


    えぇとこれは…ファンタジーですかっ。


映像は良かった。廃墟ビルの寒色というか無機質なモノクロ感と、火の
暖色の対比とか。

ストーリーとしては主人公が「女は引っ込んでろ」的な冷遇でなかなか
前に出られず、自分で探っていこうとするのだけど、手から炎が出てい
たとか、ラストも非現実的でもうこれXファイルやん、みたいな。
でも科学的にも超常現象としても解決しない、映像を楽しむ作品かと。
どうやら、チュニジア版『CURE』らしい。


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コンペティション『This Is What I Remember』(キルギス/日/オランダ/仏)


https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP14 


キルギスの大地で展開するドラマ
馬を放つ』(17)で知られるキルギスを代表する映画作家アクタン・
アリム・クバトの最新作。ロシアに出稼ぎに行っている間に記憶を失い、
20年ぶりにキルギスに戻ってきた男とその家族を描くドラマ。


    親を思って切なくなるけど、妻への態度はヒドいんじゃないか。


あらすじを読んでから見ないと、認知症のおじいさんに見えてしまい、
『へその緒』みたいな話かと思ってしまいそう。
でもおじいさんはボーッとして表情がなくてしゃべらないし、村人が
イカれちまったらしいよ」と言っているのであながちそうかも。

元妻はおばあさんに見えない美しさで有力者と再婚していて、元夫の
帰国で心に波が…彼女の苦悩やラストの歌声が涙を誘う。
監督自信がこの男を演じていて、息子役も息子本人だそうだ。
この息子がね、お父さんを思うのはわかるけど、自分の妻に「ちゃん
と見ておけ」だの、いなくなれば「お前のせいだ」「自分の親じゃな
いからか」となじるのがねぇ。
息子の妻はいい人で、協力しようとがんばるのに、小さい子の面倒も
あるのだからままならない。

やっぱり女性の扱いがひどい国だな、というのが強い印象。
でも、イスラムの女性のファッションやラグや雑貨はかわいいし、孫
娘がイタズラっぽく祖父の髪を切っちゃうシーンは良かった。