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て言うほど行ってない人間の

2020/ (TIFF) 東京国際映画祭⑤

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©2020TIFF

『HOKUSAI』(日本)


絵ってのはなぁ、世界を変えられるんだ。


予告編と解説
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3302SPS01


歌麿写楽北斎と、私は詳しくないけどチョー有名画家たちの
共演って単純にスゴいなと思う。
「人に指図されるのがでぇきれぇなんだ」が口ぐせの北斎
描きたいものしか描かず腹立てば殴り、マイペースで、それでい
て自分は上手だと思い上がって、当時のプロデューサー的存在の、
阿部寛演じる蔦谷に鼻っ柱を折られて愕然とする。
指図されたくない、でも他人に世間に認められたいという承認欲
求の強さや嫉妬深さが伝わり、見ていて手に力が入る。

ゴッホドビュッシーも富岳三十六景に影響を受けたんだな。
青年期と老年期の北斎も見ごたえあったし、世界を変えられるとい
う蔦谷のセリフや先見の明、反体制っぽい態度もカッコいい。

でも、小説家の種彦の年齢設定おかしいんちゃう、と気になった。

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『アラヤ』(中国)


すべてが回収される終盤が見事。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP04


行方不明になった息子を必死で探す父親、近所の男にレイプされる
若い母親・・・これらはなんだったんだろうと思ってたら年数が立
ち、今度は10代の少女の妊娠・出産が長々と展開される。
薬局でわちゃわちゃなやりとりが何度もあるけれどもう「?」だら
けで、背後から殴った人は誰、とか逃げた人は誰、なぜ記憶喪失に、
とか付いていけなくなるのだが、10日前の回想で解明される。
すっきり♪
しかし無駄に長いシーンが多くて、カットで2~3秒で済むのを5分
くらいかけて延々と見せられたり、省けるだろう箇所が多すぎ。


サティのジムノペディはこの映画祭で三度目くらい、しょっちゅう
使われてるんだなぁ。予告編でも流れるフォーレのエレジー、地に
沈んでいくような旋律が物悲しくて、でもこれらのクラシック曲が
悠然とした田舎の風景にめちゃくちゃマッチする。
全体的には好きな映画。何も知らずに見たほうがいいかと。

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©2020TIFF

『荒れ地』(イラン)


喫煙シーンもなんだか美しい。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC13


工場の突然の閉鎖で、解雇される労働者たち。
工場長に優遇されている愛人ぽい女性、解雇されるがままの人たち、
庶民の悲喜こもごもかと思ったら、 "悲" しかないように思える。
自分のために家族のために残りたい、他人のことをチクってでも。
デジャブ?と思うくらい、同じシーンが3回ほど流れる。
それらは人物によって視点が変わっている。

それぞれの人生、それぞれの生活。長回しのシーン。
モノクロで美しい映画。

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『息子の面影』(メキシコ/スペイン)


貧困の残酷さったらないよ・・・。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC07


息子を探す女性、それとは別に帰省したのに不在の母親を探す男性、
二人が出会ってロードムービーっぽい展開でハッピーエンドになれ
ばいいな・・・と見ていたら。
いきなり、違う映画になったかのような展開で時間の流れもガラリ
と変わったかのよう。もう、なんと言っていいのか。
予備知識なしで見るのがいいかもしれない。

最初のほうで主人公っぽい女性が文字が読めず、それを助けた同年
代っぽいショートカットの女性がいた。彼女も息子を探している。
思い違いかも知れないが、そのショートの女性の息子が、後に主役
ぽい女性と出会う若い男性ではないのかなぁ。
そうだったら、せめてもの救い。

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©2020TIFF

『愛で家族に  同性婚への道のり』(台湾)


なぜそんなことまでさらさないといけないのか。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC20


同性婚が法的に認められ結婚した、3組のドキュメンタリー。
法律婚の功罪を興味深く勉強したことがある私は、そのあたりの
民法に当時やたらと詳しかった。
映画に出る住民票の "同居人" 扱いも日本も同じだと知っている。
だから法的なことも含めてめっちゃ語りたくなる。けど割愛。

なにより、同性婚を訴えるためのデモ等のアピールで「私は同性
愛者で母親です」と掲げているシーンが悲しい。
いろんな権利が認められない、こどもも不利な扱いになる、だか
ら認めてほしい、という続きがあるのだが。
なぜ、プライバシーであるセクシュアリティを暴露しないと前に
進めないんだろう。
たとえば「私は異性愛者です。異性とHするし今後もしたいです」
や「私は恋愛にもHにも興味がありません。そんな行為しません」
なんて不特定多数の見知らぬ人たちに示せと言われたら。
これ以上の辱しめはないのでは、と強く思う。
こんなことをさらして運動しないと勝ち取れなかった権利は重い。

彼女ら彼らはそのうち不倫したりフツーに離婚するかもしれない。
それにも性別は関係ないはず。
あのカップルやこどもたちが明るく生活できるといいな。

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『足を探して』(台湾)


台湾映画や俳優に詳しいと楽しめそう。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC17


切断しないと命が危ない、と言われ夫の足の切断を了承した妻。
でも結局、病院で夫は亡くなる。
せめて足を元に戻して葬儀をしたい、と願う妻が奔走する。
夫婦の出会いから結婚生活の回想が多数挟まれ、コメディでも
ありなかなかおもしろいのだけど、夫がけっこうクズ。

病院側にしたら、切断した足を廃棄してOKとサインしたのに何
をいまさら、と業務に支障をきたすし困るのだが、妻にしたら
夫が生きていてくれると思ったから足はいらなかったのだ、と。
なるほど。
台湾の病院ってセキュリティどうなってんの、と疑問・・・日本
と同じようなんだろうけどコメディだから職員のPCを覗きこんだ
り医師につきまとったりという流れなのだろう。
夫婦の物語にジーンとさせようという感じだけど、私は特に感動
はしなかったなぁ。フツーに楽しめた。
グイ・ルンメイに詳しくないが美しくて目の保養になった。

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©2020TIFF

『マリアの旅』(スペイン)


よかった。ジーンとする。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3301TKP30


なんかもう枯れたような人生あきらめているようなマリアは入院中。
隣のベッドに来た若い女性ヴェロニカに、やれタバコ吸うなだの窓を
閉めろだの、小言を繰り返すので印象が良くない。
でもウザがらずしゃべってくるヴェロニカ。
この出会いが、マリアの今後を大きく変えることになるとは。
ちょっとね、悲しいことが起こるんよ。涙が出るんよ。
放っておいてもいいのに、マリアは放っておけなくなるんよね。
そして旅が始まる。

結末は、観客ゆだね型。
あぁきっと、彼女はこうしてああするんだな、と期待してしまう。
女性に良さそうな映画。

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©2020TIFF

メコン2030』(ラオス/カンボジア/ミャンマー/タイ/ベトナム)


1話と2話はよかった。


https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC11


2030年のメコン河、をテーマに5ヵ国5人の監督によるオムニバス。
特に2話目のラオスのきょうだいの物語はおもしろかった。
いい意味で長く感じて見ごたえがあり、最初に出てきた人物の話を
信じてしまうが、覆されて真実や展開が楽しみになる。それに一番、
近未来っぽい設定だったのではないかと。
3~5話はちょっとダレてしまった。
もうちょっと、深みのある短編を見たかったな。

 

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©2020TIFF

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©2020TIFF


クロージングセレモニー・観客賞授賞記者会見


『HOKUSAI』2021年5月公開


やはりダーク系な衣装の男性陣に1人、華やかなドレスの河原れん氏。
きれいな女優?と思ったら、企画・脚本担当だそうで、北斎を描く
工夫や苦労エピソード披露に熱が入り、私も聞き入った。
田中泯氏の常時、凛とすっくと立つ姿に感銘を受けた。


https://2020.tiff-jp.net/news/ja/?p=56129


『私をくいとめて』12月18日公開


監督の、はじめはよく女性だというだけで特別扱いされてラッキー、
と思ってたけどだんだん腹が立ってきた。とか、映画鑑賞する若者
が少ない、という話が印象的で耳が痛くもなる。若者でないので。


https://2020.tiff-jp.net/news/ja/?p=56142


11月9日、無事に閉幕。
大九監督の言葉のように、今年は中止やオンライン実施が相次ぐ中
での東京国際映画祭の実地開催は英断だっただろう。
遠方から宿泊する私は本当に東京に行けるのか・行っていいのか直
前まで迷って交通機関は2日前にこわごわ予約。
期間中、東京の新型コロナ新規感染者数はだいたい100人台推移で、
終盤に200人に届きヒヤヒヤ、取材仲間とのランチも中止した。
まさか翌週に300、400、500人超になるとは。居住地の大阪も急増。
今後も来年も未知数だけど、映画祭が無事に開催されて閉幕できた
ことは本当によかった。とりあえずの安堵。
世界の多数の映画を楽しめたことに感謝しつつ、昨年までの日常が
早く戻ることを、ありきたりながら切に願う。