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て言うほど行ってない人間の

2014/東京国際映画祭⑤

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アトリエの春

映画つづき。11本。

★→とってもよかった〜
◎→これもよかった〜
◯→ワタシ的にはイマイチ・・


★『アトリエの春』(韓国)

 

期待してなかったのにめっちゃよかった。掘り出し物。

 

ベトナム戦争の爪痕が残る60年代。彫刻家の妻は難病の彼のた
めに、町で会った若い女性をモデルにと連れてくる。彼は意欲を
取り戻し、モデル女性は二人の子の母親であり夫に虐待されてい
るが、彼女もイキイキとしていく。}

ハッピーエンドなのかバッドエンドになるのか、なかなかラスト
の想像がつかない。あらすじだけ見れば、彫刻家とモデルのW不
倫話?ヌードモデルだしな、と思ったが全然そうではないのだ。
(そこのアナタ、残念でした)
最初、裸になることもあってモデルをちゅうちょしていた女性だ
が、高給だしこどもたちも見てくれるし・・暗かった生活にあか
りが灯る。しかし飲んだくれで働かず、家の金で賭け事ばかりす
るうえ暴力をふるう彼女の夫。モデル業にも支障が出始める。
そして奇妙な事件が起き、意外なラストへ。

奧さまがステキすぎ! 彫刻家と女性が毎日ふたりきりで親密に
なっても、彼の生きがいを喜び「あなたは恩人」とモデルをして
くれることに感謝する。中盤は奥サマの影薄いやん、と思うが
待ってて! 終盤とラストで泣けるから!

最後は、悲惨といえば悲惨な結果かもしれない。でもそれに付随
する物語が爽やか・・は言い過ぎだがいい余韻を残すのだ。
女性の重い生活に比してアトリエのある湖畔の水と緑、空がとて
も美しい。
ミラノ国際映画祭で大賞と撮影賞、妻役の主演女優賞は納得。


◎『わかってもらえない』(イタリア/フランス)

 

キャンディのようにポップな世界で、ビターな現実・・。

 

{芸術家の両親が離婚。それぞれの連れ子である姉ふたりは当然
それぞれと暮らし、9歳のアリアは決めかねたまま、往来する。}

この主人公が美人さんで! 9歳の設定なのに、アップだとハタチ前
後のきれいなおねーさんに見える。色気もあると思ったのは私だ
けだろうか。でもこどもらしくチャーミングで、黒猫が好き。
そこに口汚く罵り合う大人たち。愛されたいのに、愛してるとも
言われるけれど、邪険にされるシーンが痛々しい。
そのさびしさからくる行動は度を越えてしまい、唯一の親友にさ
え見放されてしまう。そして、まるで “こどもあるある” のような
間の悪い正直さがアダとなって両親はドラッグで逮捕。姉にも
「アンタのせいよ! わざとでしょ」・・
ふんだりけったりで見ていて悲しすぎる。まだこどもなんだよ。
でも全体重〜いわけでもなく、全編の色彩がやわらげているようだ。
苦い思い出を抱えて、少女は大人になっていくのだろう。と勝手に
予想し最後20分を残して別の映画へ。ラストを知りたいとささっと
検索したら、衝撃だか意外だか書いてる方の文章があったような。
もっかい見つかるかな。
気になるので落ち着いたらまた探ることにする。
母親役にシャルロット・ゲンズブール、父親役はガブリエル・ガルコ。
(・・て私は存じ上げないが、知ってる方にはおぉ! みたいね。)

 

◎『百円の恋』(日本) 【日本映画スプラッシュ 作品賞】

すんごく期待して見てしまったからだと思う・・・
フツーにおもしろかった。


安藤サクラ演じる一子(いちこ)は32歳、彼氏一度もナシ、無職で
実家でダラダラ過ごしている。最近、子連れで出戻った妹はそんな
姉にイライラ。遂に取っ組み合いの大ゲンカをして一子はひとり暮
らしをして百円ショップで働く。そしてボクシングと出会い・・。

妹の気持ちわかるわぁ。出戻りだし親に世話になってるし、家業の
弁当屋を毎日手伝っているのに姉は何もしない(どころか売り物の
おかずをつまみ食いしたり、甥っ子とゲーム三昧だったり。ロクな
伯母じゃない)。なのに、そんな姉を追い出さない、キツく叱らな
い親。言い争うと「きょうだいなんだから仲良くしてよぅ」と親を
悲しませてしまう。一子はどうしようもない女性だ。

そんな彼女が百円ショップで働くと、ま〜たひとクセもふたクセも
ある従業員や客がいて、観客としてはおもしろい。
で、恋をしたボクサー〈新井浩文〉と親しくなったり、尽くしたの
に姿消されたり・・でもなぜか自分もボクシングを始めちゃう。
そして練習を重ねて腕を上げ、プロ試験や試合にまでこぎつける。
一子の体型、特に腹まわりの肉が、映画の最初とボクシングシーン
ビフォーアフターのように違うのが見事。
試合で家族が見守る姿もジーンときた。妹もね、応援してるしね。
ネタバレになるので伏せるが、試合後に泣きながら何度も吐くセリ
フもよかった。うんうんそうだよね、ってうなづける。

楽しめて、いいストーリーだと思う。ただ映画祭で先に舞台挨拶を
見、「すっっっごくおもしろいですっ!!」と念を押されて期待しすぎ
てしまった。でも安藤サクラはやはりスゴイな。


★『ゼロ地帯のこどもたち』(イラン) 【アジアの未来 作品賞】

 

またまたイラン映画で、心に強く残る作品。

 

{国境地帯の廃船を拠点に、釣った魚を売って生活する少年。隣国の
兵士の目を逃れていたが、ある日、闖入者によって平穏が破られる。}

 

自分より少し大きい少年兵か?銃を向け、わからない言葉で命令する。
必死で拒否するも、そいつは船の中に境界を設け、別の部屋にいつい
てしまう。迷惑ながらも興味を持ち、食料も分けてやる。数日後、外
から戻ったその子は赤ん坊を抱いて泣いている。主人公も事情がわか
らないが、両親が死んで弟妹が残されたのかな、と私は推測。哺乳瓶
やミルクを調達してやる少年。その子の内情を知ってプレゼントまで
買ってくるのだが・・。
素直に渡せずその場に置き去り、魚釣りをする少年。気に入ってくれ
るかな、どうかな、というソワソワが伝わる。そしてその子の現れた
演出が・・憎い。
日本公開してほしいのでネタバレなしで。ぜひ見ていただきたい。

赤ちゃんも含め3人の生活が、今度は白人の大人兵の出現によってま
た事態が変わる。通じない3ヵ国語で難しい疎通。憎むべき大人兵も、
家族を残して異国で望まぬ仕事をする寂しい人間なのだ。彼をどうす
るかでこどもたちは激しく対立する。落ち着いたかと思えば戦況が悪
化しラストは・・静なる衝撃。
セリフが最小限しかなくても状況が手に取るようにわかる。この4人の
顛末も考えさせられるし、もともと少年がひとりぼっちだということ
も重要だ。
イラン映画にはこどもが主役の名作も多い。そういえば未見だが『運
動靴と赤い金魚』や『ともだちのうちはどこ』など私もタイトルは
知っている。
今作はほのぼのとはほど遠く、でも泣けるわけでなく静かな展開も多
い。この “淡さ” が残す余韻・反戦メッセージは強烈だ。
作品賞、おめでとうございます。

 

◎『セルフ・メイド』(イスラエル

 

これ、きっとおもしろい! はず。なのに途中しか観られず。

 

{対照的なイスラエル人女性とパレスチナ人女性。検問所にいた彼女
たちは、警備兵の勘違いで互いの家へ送られることになり・・。人生
が入れ替わる。}

 

実は彼女たちは客と購買先の被雇用者としてなど、それまでにも関連
があるのだが、決定的出会い・入れ替わりは検問で。
映画では検問所が重要なポイントになっている。監督のQ&A記事を
見つけると「パレスチナ人は仕事や病院に行くのさえ、何時間も検問
所に立ってからでないと検問を通ることができない」・・そういう事
情があったのか。
兵士の勘違いでふたりはそれぞれ見知らぬ家へ行くことに。
女性たちは笑顔がないどころかけっこうトゲトゲしているのだが、劇
中はトラブルや誤解などで笑える場面が多い。

あーもったいない。どうなるんだろう! とワクワクしながら続きを見
たいのに、オーウェン・ウィルソン緊急来日で会見があり、「この映
画は日本公開されずもう見られないかも。見たい・・でもオーウェン
は生の人間・・二度と見ることできないかも。やっぱ人間優先!」と、
うしろ髪引かれながら会見へ。
皆さんもそうするでしょ!! って東京の人はまた彼と会えるかもしれな
いが、私は関西人。関西に来てくれる白人ハリウッドスターはトムと
キアヌしかおらん。
(キアヌりぃぶす様なんて直近は西宮やで西宮。大阪ちゃうんで。)
よし決定。
てことで、映画の結末は落ち着いたら検索することに。誰か書いていて。

ひとりの男が夫とカレシ兼ねてるやんおもろいやん、と思ったが、
監督の記事では「同じ俳優だが、他人のダンナは皆同じに見えると
いうこと」らしい。なーんだ。
ユーモアもあり、イスラエルパレスチナ問題も勉強になると思う。


◎『闘犬シーヴァス』(トルコ/ドイツ)

 

スゴい子役・・ふてぶてしいオッサンみたい。(←ある意味褒めてる)

 

{瀕死の闘犬を助け育てる少年。学校では発表会の芝居で不条理な
配役がなされ、強く成長した闘犬にも大人の思惑が絡んでくる。}

 

先述の『わかってもらえない』といい今作といい、幼いこどもが
タバコを堂々とプ〜カプカ吸うシーンは日本なら即クレームですな。
そんなニホンジンとしては「わ〜こんなんエェのん」とドキドキ
してしまう。この少年も「日常でっせ」と言わんばかりでほとん
どオッサンである。

いやいや、でも。叔父に対して怒りまくるシーンは長いのに迫
力があり、少年の憤りが伝わって見ごたえがあった。やるなぁ。
そしてこれも展開どうなるのか!うしろ髪引かれながら別件へ。
最後まで見られず残念だ・・

 

★『ワイルド・ライフ』(フランス)

 

こどもなんてよぅ、大きくなれば生意気だし口ごたえするし
ブツブツ(誰ゃ)

 

{妻の希望で放浪生活をしてきた家族。しかし将来に不安を感じた
妻は実家にこどもたちを連れ帰り夫と別居。面会許可を利用して夫
はふたりの子と逃亡。考えを手紙に記すもそれは“誘拐”になり、長
い長い潜伏生活が始まる。}

本当にありそうだなぁと思ったらなんと実話が元である。悲しいの
は、許された面会の数度目で夫が決行するところ。こどもには
「キャンプに行くんだぞ」と誘う。ところが3人のうち、長男だけ
はその日ガンとして「行かない」と残るのだ。そこから母と長男・
2人の弟と父親は10年もの間、離ればなれになる。
いや、後者が10年間逃げ隠れることになる、だな。
父子は山に身を潜め、名前を変え、時々行く街では警察の目を気
にする。母親に、兄に会いたい、父も大切。こどもが犠牲になる
ことが痛々しくて。
山の仲間と自給自足したり畜産物を換金したりする生活だが、他
人とのトラブルも起こるし、2人の息子はだんだん大きくなって
自我も強くなる。街で流行りの服や靴を揃え、髪型もイマドキに。
文明に感化されるのかと父は怒り、子は自分も働いた金だと反抗。
好きな女の子ができても本名も言えず、不審がられて距離ができる。
いっそ警察へ出向こうかと何度も葛藤する。彼らのイラだちは当然
なのに、遂に父親逮捕後の2人の言動が・・泣けてくる。

長男は妻の連れ子で、しかし夫が「本当の子だと思っている」と
彼に接するシーン、母が事件後ずっとマスコミに訴え続けている
記事を保管していた父、それを見つける息子たち、そして幸せ
だった頃の夫と妻の恋愛回想・・・。
愛も身勝手も緊張感もある物語。彼らは今どうしているんだろう。


◎『寄生獣』(日本)

 

こどもなんてよぅ、大きくなったら生意気で口ごたえしてブツブツ。
(また?)


90年代の人気コミックの実写化、らしい。二部作で続編は来年4月公開。

もー、涙出そうになった。
そう、中学生や高校生にもなると、親なんてうっとうしくて。
おらっ、誰のおかげで大きくなったと思ってたんだっ。
亭主関白のオヤジか、てなモンクも言いたくなるわけで。
でも、腹立つけどやっぱり心配しちゃう立場で。そして、高齢になって
いく自分の親のことも思い出したり。秋に、夏の疲れか食欲もなく寝込
んだ、実は去年もと聞いて、なんで言わないんだよう、子どもに迷惑か
けたくないんだろうけど・・。
親孝行、したいときには親はなし。そうなりたくない。でも一番近いか
ら、やはり無愛想ななにげない毎日。そもそも良い母でなくてごめんよ。

↑なんか間違えてんじゃないの。いえこの映画見て思ったことっす。す。

 

◎『シーズ・ファニー・ザット・ウェイ』(アメリカ)

 

吉本新喜劇みたい〜なフクザツな絡まりが笑える。

 

{妻が主演の舞台を手掛ける演出家の男。そのオーディションに来た
のはなんと、一夜を共にしたコールガールだった。彼女に多額の金を
授けていた男は過去にも・・・人間関係が交錯するコメディ。}

 

いや〜楽しかった。妻とか愛人とか親とか子とか同僚とか“世間はどん
だけ狭いねん”物語。
あげてきたのはお金だけじゃなくって、いつも同じ○○も彼女たちに…
ってのがバレるシーンもおかしい。有名監督の13年ぶり新作らしいね。
タランティーノのチョイ出も笑えた。

 

《Q&Aより》

出席:ピーター・ボグダノヴィッチ(監督)、オーウェン・ウィルソン(主演)

さっき!日本に着いて今!六本木に到着したばかりのオーウェンが遅れ
て登場〜。「LAからのフライトはとても長かった。全然寝られな
かったよ。初来日で、東京はすばらしい場所だと思う」←着いてすぐで?

・映画の着想は
78年にシンガポールで娼婦の映画を作った。実際のコールガールに
何人か会い、出演してもらった。何人かは故郷に戻りたいと言ったの
で今やってることをやめて国に帰りなさいとお金を渡した。その経験
が元で、あとはフィクション。
オーウェン:この企画はクレイジーだ(笑)

いいキャストを揃えることが一番大事。すばらしい人を選び、監督が
ベストな演出をする、それには関係性が肝心だと思う。
私はオーウェンのファンなので彼がイエスと言った時にこの映画は成
功すると思った。
オーウェン:NYが舞台の映画をNYで撮ることがすばらしいと思う。実
際はそうでないことが多い。ピーター監督と仕事ができる喜び! 今回で、
より絆が強くなったと思う。今回ほど誇らしく思ったことはない。

タランティーノの出演について
最後は有名人で締めくくりたいと思った。ディカプリオかジョージ
ルーニーを考えたが、映画監督で皆が顔を知っていて有名人を考え
ると彼だった。

オーウェンが「こんなフツーの人」と劇中で言われるのは違和感が
普通の人、というわけではなくケイリー・グラントではないという意味。


筆者は映画通でないので、おもしろかったが周囲より笑いは少なかった。
上記のケイリーも「?」なので調べたら、いろいろな有名俳優の名前
がセリフに出ているそうなので、昔からの映画ファンは特に嬉しいよう
だ。こういう知識があると、3倍も4倍も、いや10倍もこの映画は楽しめ
るんだろうな。
単なるミーハーだけど、生オーウェンを見られて感激。客席は満席のう
え、マスコミの人数が多すぎて入りきれないほどの注目作品だ。熱気が
すごかった。

 

◎『遺灰の顔』(クルディスタン/イラク

 

え、これ、コメディにしていいの、笑っていいの?と戸惑ってしまう。

 

{80年代のイラン・イラク戦争で、政府の手違いによる別人遺体の騒動。}

 

ある村。結婚式の最中、親族の老人に、孫の男性が戦死したと遺体が
運ばれる。式は中止、葬式の準備にかかろうとするも、遺体に割礼跡
がないことに気づき、別人ではないかと慌てる。損傷で顔などは不明。
息子も戦死しており、息子は孫に割礼をしたのか?宗教が異なる隣家
の夫婦は自分の息子ではと言い、役人に訴えても取り違えはないと帰
される。遺体の腐敗は進んでいく。

別人は実際に多かったらしく、めちゃくちゃやなって感じ。おもしろ
く仕上げたのは伝わるが、笑いがとても昭和っぽいのだ。あ、年代的
には私にぴったりか。
いとこ男性は、戦死した彼に対して悲しむどころか、俺の結婚式はあ
ぁ!!状態。
村中が、あーだこーだゴタゴタしてラストは・・・ちゃんちゃん。
でも反戦メッセージが込められている。訴えに行った時に彼らが見た
遺体の棺の数は尋常じゃない。人間が人間として扱われない、誰も得
しない、戦争。


★『コーン・アイランド』(グルジア/チェコ/仏/独/カザフスタン/ハンガリー

 

ほんと奇跡のような映像。静かながら目が離せない。

 

{対立する二国間を流れる川の小さな中洲。そこに家を建て、畑を
耕し、老人と孫娘が生活する。セリフが極少の、自然のドラマ。}

 

娘はなんだかいつも小花柄のワンピやらニットやら、かわいい格好を
して汚れ仕事(農作業とかね)をしている。そこから舟で町へ通学し
ているからか。
娘は汚れた服を脱いで川で洗ったり、全裸になって水浴びしたり。
時々というかしょっちゅうというか、兵士たちが舟で通り「お嬢
さーん、名前教えてよ、カワイイねヒューヒュー」なんて声をかけ
る。アラこれはそのうち、○○が△△して・・なんてアダルトな想
像をしてしまう。それにある日、これまた成人男性が・・まあっ、
これは絶対××・・コラッ。
娘は初潮を迎え、植えたとうもろこしはぐんぐん伸びて背丈を超え
る。何か起こるのでは、と緊張するシーンが満載だ。
激しく、しかし悠然としたラストに息を呑む。主役は、人間じゃな
かった。
自然とは、人間とは、・・って考えたいような考えたくないような。