映画祭に行こう 映画館に行こう

て言うほど行ってない人間の

2015/東京国際映画祭②

f:id:uchide_eiga:20200911180525j:plain

『 残酷【ざんえ】ー住んではいけない部屋ー 』(日本)
                                 

1回目、開始20分後から最後まで見た。「そんなコワくないやん」。
2回目、最初〜20分を鑑賞。めめめめっちゃコワいやん!!

 



あなたの部屋の前の住人は、どんな人か考えたことありますかー。
ミステリー小説家の“私”は読者からのホラー体験を掲載するコーナー
を持っていた。大学生の久保さんから「部屋で奇妙な音がする」と
いう手紙をもらい、似たような話の別投稿を思い出して探すと、同
じマンションの別の部屋の住人だった。階も部屋番号も違う別の部
屋がなぜー。そして、それらの部屋から越した住人は不可解な死を
遂げていた。“私”は久保さんと一緒に調査を始める。


あ〜しまった。最初に途中から見たのがいけなかった。あんまりコ
ワくないし、小説家の夫やら編集者やら自治体の人やらいっぱい
関わってきて「で、オチはなんだぃ。昔なにがあったんだぃ〜早く
教えて」と退屈になってしまった。
ところが、最初から見るとどうだぃ。ここ、こえぇ。怖ぇ。
もう最初から昔死んだ人の映像がハッキリ出とるやないかぃ。ネタ
バレしとるやないかぃ。これを見ていたら、「あの○○姿の人は誰?
なんで死んだの?」と過程を楽しく(いや、ゾゾ〜としながら)
追っていけたのに。


記者会見では、中村義洋監督、竹内結子橋本愛が登壇。
ゴールデンスランバー』以来、監督とは5年ぶりの竹内結子は「い
つも幸せな撮影期間なので、今回も喜んで受けました。でもホラーと
聞いて後悔もあります」ものすごいビビりだそうで「実はまだ完成し
てからちゃんと見れてないんです〜途中でリタイアしました。公開日
までには見なくてはと・・・」会場笑い。
役の“私”は自分と違い、まったく怖がらないので「コワくない、何も
コワくない」と言い聞かせたそう。でも帰宅後も引きずり、照明をこ
うこうと点けて寝たとか。
でも好奇心旺盛なところは役と似ているかもと思う、と。

橋本愛は「好奇心が多分にないと成立しない役だと思う。久保さん
は恐怖がありながら好奇心もあって、小説家さんに手紙を送ってし
まう。そのあたりを意識した。私は怖がりでなくけっこう平気。毎
晩真っ暗にして寝てました(笑)」
監督「僕はフツーに撮るとコメディ寄りになっちゃう。だからまず
暗いスタッフ集めから始めました」会場笑い。

監督はホラー現象などを信じていなくて、すべて説明できる、と。
それでも、撮影中に何か起こったか聞かれると、「タクシーで、カ
メラマンひとりなのに出るはずのないところで手が出ていてびっく
りした」などいくつか出てくる出てくる。
絶対説明できるはずですけどね、とおっしゃりながら。
竹内結子はすぐさま「はい!私から質問!」と挙手。「監督、やっぱり
私、試写見なくてもいいですかっ?」会場笑い。
主演女優がそれはダメでしょう、と監督。
「・・・勇気をためて見に行きます」

橋本「結末がすごく意地悪で、ほんっとう〜にイジワルなんです。
最近こういうイジワルな結末を見せてくれる映画が減っているので、
ぜひ見てほしい」と。

うん、たしかに、最後に「げーっ。そうだったんか・・・」と私も
思ったよ〜。
エンドロール最後まで見てね。出演者やスタッフ字幕に気を取られ
がちだけど、映ってる人物がナニやってるか、よ〜く見て!!



『 ニーゼ 』(ブラジル)
                                 
じわじわ、そしてジーンと感動。時代に加えて、女性だから、もある。


1944年のリオデジャネイロが舞台で、今回のコンペで多かった実話も
ののひとつ。ショック療法が一般的で、暴れる患者を人間扱いしない
精神病院に、医師ニーゼが着任する。芸術療法を含む画期的な改革案
を導入するが、彼女の前に男性社会の厚い壁が立ちはだかる。ユング
の理論を実践し、常識に挑む精神科医の勇気と苦闘。

ニーゼは患者に暴力的な療法を用いることを拒否し、男性医師にイヤ
ミを言われ続ける。使っていなかった作業療法室を担当させられるが、
それがかえって独自性を発揮できたのかもしれない。
彼女は犬を飼ったり絵画制作をしたりして統合失調症治療に取り組ん
でいく。ユングに手紙を書いて返事をもらい、無意識の領域という理
論を実践して周囲にバカにされるが、患者たちが素晴らしい芸術性を
持っていることが明らかになって展覧会を開く。閉鎖的な病院や医療
に改革をもたらしたのだ。

未来は明るいと思えたが、やはり不幸が起きる。男性医師たちは、な
んてイヤな、クズみたいなやつらなのだろう。…でもそれは主人公の観
点の映画なので感情移入するが、私が当時の彼らだったら、やはり同
じように彼女をいまいましく思うのだろうな。彼らだってちゃんと勉
強して経験を積んだ医師なのだしね。

彼女はいつも言われっぱなしでなく「うまい!」と思う切り返しもある
し(セリフは脚色だろうけど)何より彼女の家庭が、すごくいい。
夫との仲の良さがしょっちゅう描かれ、夫は彼女の仕事を応援してい
る。そんなやすらぎの場があったから頑張れたのだろうと思う。それ
に、接しているうちに、患者たちも患者というより友人のような、家
族のような、仲間のように感じていったのではないか。当然、最初は
患者に怒鳴られたり叩かれたり、大変だったのだが。
自分にはとても無理だけど、こういう人がいたんだということ、その
前向きな姿勢や苦労を見ると、胸が熱くなって勇気をもらえる。
性別や年齢にかかわらず、前例がないことを実践するって難しい。で
も誰かがやらなければ何も変わらない。

その後、実際に芸術家として活躍した患者もいる。最後に、本人の意
思を無視され、元の担当医の、元の精神病棟に戻された患者がいる。
その人がどうなってしまったのか、すごく気になって気になって。た
ぶん病状は悪化したんだろうな。悲しい。



『 ガールズ・ハウス 』(イラン)
                         
待ってました、今年もイランの問題作。緊迫感あって、さすが。
真相がわかると、もう一度最初から見たくなる。

(これもネタバレ〜)

結婚式を翌日に控えた女性が死んだ。直前まで新居のカーテンを
変えていたらしい。友人たちが調べ始める。しかし女性の父親は
非協力的で要領を得ない。一体何が起きたのか。本当に死んだの
か? 謎解きドラマの形を借りつつ、伝統的なイスラム社会の影
に踏み込む衝撃のドラマ。


目が離せず、緊張しっぱなし。でも頭良くない私はただ真相を追
うだけになってしまい、上映後の記者会見で「そういう背景だった
んだ」とわかった。
プレスの知人が「質問といいつつ、自分の知識のひけらかしとか、
自分は見解深いんですよみたいに自慢する人いるよね。で、質問
はなんなの?っていう」…たしかに。いつもはそういう場面に出く
わすと苦笑するが、今回はソレに助けられた。

その質問(!?)は、だいたいこんな感じ。
「イラン社会で最近顕著な、男性は高卒で親の会社を引き継いだ
り早くから仕事をしていたりで学がなく、大学は女性のほうが圧
倒的に多いんですよね。で、この映画も女性のほうが大学院まで
行って学問を身に付けて、男性と知り合う機会も多く、男友達も
いる。花婿のほうは女性と知り合う機会がなく、だから自分の婚
約者が異性と関係があったんじゃないかという疑いを持ってしま
う」みたいな。はー、なるほど。それで大学は女性ばかりなのか。
大学って、行ってないとどんなことしてるのか知らないもんね。

で、映画は日を遡ったり戻ったりするので、うたたね厳禁。
昨日まで一緒に笑い、買い物をし、結婚式を楽しみにしていた花
嫁。大学の友人2人は突然、「花嫁が事故で死んだから明日の結
婚式は中止」と非通知の電話を受ける。
不審に思い、花嫁に電話をかけるが携帯が通じない。
どういうことかと花嫁の父に聞くもなぜか口ごもったか取り合って
くれなかったかで(うろ覚え)、初対面の花婿のところに行って
思いきって聞いてみると彼は知らないと言う。「明日結婚式なの
に何を言ってるんだ?」、わけがわからない。
一体、電話をかけてきたのは誰なのか。花嫁は本当に死んだのか、
どこかにいるのか。
結局、花婿も花嫁と連絡が取れないということで、その友人2人と
一緒に車で花嫁の行動をたどることに。しかし花婿は「彼女にオ
トコはいなかったのか、僕の前にもいなかったのか、本当か」な
どと花嫁に対する疑いをぶつけてくるし、なぜ死んだと言うのに
そんなことをしつこく探るのか、また、花嫁の父に彼が「娘はお
前に殺されたんだ!」と怒鳴られるシーンが出てくるし、彼と花嫁
の妹がたまたま部屋で二人きりになるシーンもあるしそれ見た父
親がまた、不謹慎な!出ていけ!と怒鳴るし・・・。
やっぱり花婿が殺したの?実は花嫁の妹とも関係あんの?と謎が
謎を呼ぶ。途中で、カーテン替えてる時の、スパナを忘れたとい
う業者もアヤしいし父親もなんだかなぁ。

花婿と花嫁が仲良くデートしてるシーンも回想されるのだが。
花嫁は前日も、彼と一緒にいた。だが花嫁が美容院に行くと言う
ので別れ、それ以来で今に至る。実は、花嫁はひとりで行く予定
だったのに彼が「母とオバたちが一緒に行くってさ」、彼女「えー、
○○○・・・」となんか忘れたが悪口ではないけどひとりのほう
が都合がよかったのに、みたいに言う。でも「母にとってかわい
いお嫁さんなんだからさ」と、僕は仕事に戻るから、と別れたの
が運のツキだった。

母とオバたち2〜3人に囲まれた花嫁は、すぐ済むからと知らない
場所に誘われる。
「あの、どこに・・・」「大丈夫、女医だから安心よ」なんと、
処女検査をさせようと連れてきたのだ。こわばる花嫁。「処女な
ら何の心配もないはず、拒んだら、やましいことがあるってこと
よ」花嫁の表情がみるみる・・・。私も見てて怒りが。
「やめてください。○○(彼の名)に電話させて」、電話も取り
上げ、ほぼ強迫やん! という態度でスゴむオバハンたち。医師も
「あらあら緊張しているのかしら、ガチガチじゃないの」みたい
な。コラーっ。ある意味、恐怖の映像である。
シーンは切り替わり、その後どうなったかはもう少し後に出てくる。

花嫁が死んだ?連絡が取れず、母に聞くと「結婚する前にわかって
よかったわね! あの子は処女じゃないわ! 検査前に逃げたのよ、ア
ンタは女を見る目がなかったわね!」とプンプン。「なんてことを!
彼女を侮辱しやがって!」と母親を殴らんばかりに怒る彼。
客としては、逃げたのかぁよかった・・でも実は検査後に義母に殺
された?という疑惑が。


かなり終盤になり、彼女が逃げている映像がやっと流れる。パンフ
レットの、泣いてマスカラが黒く頬を流れているシーンだ。逃げて
逃げてさまよい、電話を探し、彼に連絡しようとする。が、留守電。
その後、「女性が車にはねられたぞ!」「道に飛び出したようだ」の
声だけが響く。やっぱり死んでいたのだとわかるが、本当にはねら
れたのか、自ら飛び出したのか。

彼女の妹がニコッと微笑むアップで映画は終わる。
なんなんだ、この笑顔は・・・と私は勘ぐったが、妹にも彼氏が
いて、でも街中では手をつないでいても知人がいたらサッと離して
他人のフリをするなど、オープンではない。イスラムの古いしきた
りにからめとられた姉のように、この妹も笑顔が続かないのではな
いか、同じ不幸が訪れるのではないか、という見解をしていた人が
いた。なるほど。
結局、死んだことがわかったからってスッキリしないしまだ続く物
語である。花嫁の友人に電話をかけてきたのは誰だったのか、女性
の声だったから、携帯を取り上げて友人の番号がわかった義母たち
ではないのか。とか、彼女の父親が花婿に「お前に殺されたんだ」
というのはどういうことか。事情を知っていてそう言ったのだろう
か。でももし息子がいたら?結婚相手には同じことを望むのでは、
などなど・・・。
なにより、なにより! なんで結婚前日に検査を言い出すねん! もっと
前に、拉致なんかせんでも言葉で検査受けてって言えば、話し合い
も婚約破棄もできたのに。
彼女が処女かどうかなんて問題ではないのだ。記者会見でも監督が
「古いしきたりに縛られた姑の考えが生んだ悲劇」のように言って
いた。で、イスラムでは自殺はタブーなので、彼女の家族はそれを
隠していると。あぁ、悲しすぎる、悲劇すぎる・・・。

ちなみに、花嫁役は日本でも有名なイラン映画彼女が消えた浜辺
に出演していて、父親は『別離』に出演。
あとあじ悪いけど、どうなるのかどうなるのかのスリル・イラン映
画、来年も楽しみ。



『 ヴィクトリア 』(ドイツ)  →Yahoo!映画に。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/355538/review/4/



『 レイジー・ヘイジー・クレイジー 』(香港)
                         
援交や激しいHシーンなど、いっぱい出てくる。なのに、さわやか…
は言いすぎだがなんともいえないプラスの感情がわき上がる作品。


トレイシーとクロエは8歳の時からの親友で、その後アリスも
加わった女子3人組はいつも一緒に過ごしている。クロエとアリ
スは援交で稼いでいて、ふたりには独特の仲間意識が。
トレイシーはそれが口惜しくて、クロエを自分のもとに奪い返そう
と作戦を練るのだった。10代の女子トリオの恋愛、嫉妬、裏切りの
世界を繊細かつエロティックに描き出した、女性監督ジョディ・
ロックの鮮烈なデビュー作。


最初はわけわかんない。眼鏡でマジメっぽいトレイシーはたびたび
ほかの2人からブスだとか、その色似合わねーよみたいな罵倒を受
けている。なのに腕組んで一緒に帰ったり、イジメなのか仕方なく
そのグループにいるのか理解に苦しむ。なんとなくヘンなチカラ関
係なのかな、と思いつつ。
「あんたには絶対無理」と突き放しつつもクロエはトレイシーを仕
事場へ連れていき、トレイシーはやはり慣れずに泣いたりくじけた
りを繰り返すが、ついに体でお金を稼ぐようになる。そこから3人の
関係がビミョーに変わっていく感じがする。トレイシーが上に立つ
とか、そういうことではなくて。

もともと学校ではアリスとクロエが女子からヤリマンみたいに陰口
を言われていて、堂々としていても、彼女たちの居心地の悪さも描
かれている。なんせ家庭が複雑なのだ。親と一緒に暮らしていない
し。そしてマジメっぽいトレイシーも祖母から虐待され、いつも優
秀な姉と比較されて傷ついている。そのうち3人でアリスの部屋に住
むようになり、またまたビミョーな女の関係が動き出す。
終盤で、ひとりが不満を爆発させる。でも「何言ってんのよ、アン
タは恵まれてるくせに!」皆が、隣の芝生は青い状態で、そんな苦し
い状況をいくら比べても、結局3人ともが、誰かに愛されたいんだ、
ってわかるシーンやセリフが切なくて。

私は両親が揃って何不自由なく育って大人になったので、彼女たち
とは全然違う。あんな青春を送っていないし、送りたい、と思うこ
ともない。でも誰かに愛されたいという気持ちや恋や友人関係の悩
みというのは普遍的なものだ。
だから彼女たちがいとおしくて、いつまでも見ていたいと思ったの
だろうな。映像的に刺激が多い、ちょっと変わった青春映画。



『 百日草 』(台湾)
                         
これは…身近な人を亡くした経験があるのなら、共感できるんだろ
うか?私には「またか」と思っちゃう“ありきたりシーン”がある。

(ちょっとネタバレ)

同じ事故でパートナーを失ったふたりの物語。ミンは婚約者を、ユー
ウェイは妊娠中の妻を失う。茫然自失のなかで葬儀をすませそれぞれ
の現実と向き合う。初七日から七七日まで節目ごとに山上の寺で読経
を繰り返すが喪失感は埋めようがない。
ユーウェイはピアノ教師だった妻の教え子たちの家を1軒ずつ訪ねて
月謝を返していくが、亡妻が好きだったショパンの曲を聴いて泣き崩
れる。ミンは新婚旅行を予定していた沖縄をひとりでまわったのち、
婚約者の着ていた服を弟に返し、初めて声をあげて泣く。
『星空』(大阪アジアン映画祭2012出品)以来3年ぶりとなるトム・
リン監督の新作。結婚・出産で休業していたカリーナ・ラム(『親密』
TIFF08出品)の久々の主演作。


私は、まだ祖父母以外の身内や友人・パートナーなど一番身近な人を
亡くしたことがない。でも、こういう映像を観ているとしみじみする。
でもでも。「亡くしてみないとわからないよ!」と当事者は思うのかも
しれないし、実際にそういう人たちはそういう心情になるのかもしれ
ないが、なぜ。
なぜ、パートナーが死んで間もなく、これまた近い人とすぐHするん?
この映画のふたりもそうだ。「あー、ここでヤっちゃうのかね、あー、
やっぱり」。やめてよやめてよと思っていても、映画って異性といた
ら結局ヤっちゃうんだなこれが。若いから?そんなに飢えてんの?
そんなんとちゃうわーい!!アンタにはわからへんゎっ!!!ってか?
でも、なんで?といつも疑問なのだ。
なぜこの手のドラマではすぐそーゆー展開にするのかね、と。

あーぁ、またかよ。とソッチの印象が残ってしまった映画。
身近な人を亡くした経験者に聞いてみたいが、不謹慎な気がするし。
姑になるはずだった女性の態度が冷酷なのもお約束で、いかにも
フィクション。そのほうが主人公に同情して、観客が感情移入する
から?なんか紋切り型だなぁ。
で、パートナーの弟は優しくて、だからってHする?なんじゃそら。

新婚旅行先にしていた沖縄へのひとり旅で、パスポートをいつも2
人分出したり、部屋はダブルのままで、枕や部屋じゅうのクッショ
ンでヒト型?を作ってシーツをかぶせ、パートナーに見立てて隣で
眠るシーン。そして翌日観光から帰るとキレイにベッドメイキング
されてちょっと悲しくなり、またクッションを使って・・・と
繰り返すシーン。それらには、じ〜んとしたなぁ。




『 神様の思し召し 』(イタリア)
                                 
笑った笑った。お父さんちっともカタブツじゃない。おもろすぎ。

(少しネタバレ)


外科医の男は腕は一流だが傲慢でジコチュー。妻とこどもふたり、
家政婦と裕福な暮らしをしていて、娘はズボラだが息子は自分と同
じ医者になるものだと期待していた。ところが息子は悩んでいるよ
うで、ある告白を家族にしたいと言う。


最初から笑わせてくれる。こんなにイヤミな人間がいるのかという
くらい、同僚や患者家族にも「奇跡などない。手術の成功は私のお
かげだ」ばかり言いまくる。ハタから見ると滑稽すぎておかしい。
で、息子が男の友人とばかり夜な夜な出かけ、家族に話があると言
うので父親はじめ「あの子はきっとゲイなのだ。言えずに悩んでい
たのだ」と家族で思い込んで、そう言われた時のシミュレーション
を皆でするところもまたおもしろい。
しかし、彼の告白は・・・
神学校に通い、神父になりたいという。医大に行かせてもらってい
るのに申し訳ない、皆失望するよね、でも神の道に進みたいんだ、
毎晩、ある神父の説教を聞きに出かけている、その人を尊敬してい
て彼のようになりたい、と。あっけに取られる家族。「そそ、そう
か…ハハハ」「ありがとう父さん!」と寛容に受け止めてくれたと喜
ぶが、「息子をそそのかしたヤツを許せん!」みたいになって、翌日
から、父の異様な行動が始まる。


もう、思いっきりコメディである。
こっそり神父の集会に行って顔を確認し、職業を伏せて失業者を
装って近づく。求職の相談をし、身の上もウソついて連絡を取り合
うようになる。調べると神父に犯罪歴があったことがわかり「ホレ
見ろ。裏で悪いことしているに違いない」。
神父から「仕事がある」と呼び出されると手術を部下に任せて出か
け(部下は男をいまいましく思ってたから喜ぶ)、「ナイフは使え
るか。仕事に必要だ」ホレ、来た!人殺しの仕事だ!と思ったら・・・
○○かぃ、いやこれはカモフラージュだ、次は銃、ホラやっぱり!
でもまた・・・「そっちか〜ぃ」ばかりですべてが男の空回り。

男はウソばかり並べて、妻は暴力的だ、障害者の弟がいる、親父は
認知症で…「おまえの家族に会って話をしよう」いや来なくていい
とごまかしたが、遂に神父が訪れることになってしまう。これがい
つバレるか、がおっかしくて。知人宅を借り、娘のダンナも巻き込
んで、笑うに笑えない状況になるのだ。この仮の家では事なきを得
て、あとでバレる場面がナイス!!おかしすぎる〜。

神父が刑務所に入っていたのは事実。しかし医者の男のすべてがバ
レ、神父と接しているうちに、神への信仰や考えを否定しながらも、
男の価値観が揺らいでいく。
神頼みで済むなら医者はいらない。私は実力で人々を助けているのに。
あれだけ傾倒していた息子が「やっぱり僕に神父は無理だ」と諦め
た頃にはすでに、医師と神父は友人関係になっていた。

終盤、それまでのコメディ色がなくなって、シリアスな、予想外の
展開になる。で、ラストは「えっ、どっちだったの?」と観客にゆ
だねるように終わるのだ。
あぁ、フィクションだけどどうなったんだろう。どっちにでも解釈
できるし、どちらにしても納得できる理由が挙げられる。
それは、客の私たちも一緒に考えてきた80分余だっただろうから。
木を見て「あの果物はそのうち落ちる。なぜだと思う?引力だから
なんて言うなよ」という言葉が最後にジーンとくる。
テンポよく笑わせてくれて、最後は死生観で泣かせるような、爽や
かなような・・・ヤラれた。もう一度見たい。


途中、母親の変化もおもしろい。医師の夫にこどもに家政婦がいて、
キレイにして、世間的にも魅力的な女性で家族からもいい母親だと
思われていると考えていた。ところが、どうもそうでなかったらし
いとわかってからの暴走がおもしろい。いや、実は笑えない。
同じ中年女性として身につまされた感じがしてチョット心が痛い感
じもするのだ。